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Matzにっき


2003年10月22日

_ [OSS]末松千尋・オープンソース戦略

CNET Japanで明日から「末松千尋・オープンソース戦略」 というblog連載が開始されるらしい。CNETは山岸編集長がblogに力を入れて、 面白いものが出て来つつあるので期待したい。

連載直前ということで「オープンソースに関する仮説」という記事がアップロードされている。

詳細は実際に読んでいただくとして、要約すると

  • オープンソースは不思議な現象である
  • 多くの人々の目には怪物と映っているはず
  • なぜこんなものが成立できるか。仮説としては以下のものがある。
    • 無償のビジネス的価値 : 創発・共創
    • 無料のビジネス的価値: デファクト・スタンダード
    • 自発性と求心力を持つコミュニティ : 高い競争力
    • モジュール型の開発体制 : 強力な開発力

ごく自然な論陣である。なにも反発する点はない。 たったひとつを除いては。

正確には反発ではなく「気づき」である。

末松さん自身が実際にどう考えていらっしゃるかはともかく、 「普通の人」にとっては、まだオープンソースは「不思議な現象」であり、 「怪物として映る」ものなのだと。 首までどっぷりオープンソースに使っている私のような人間にとっては、その視点はかえって新鮮であった。

確かに改めて考えると「不思議」と言えないことはないが、 私にとっては、どんどんモノの値段が下がるデフレ現象とか、 なんでも100円で手に入る100円ショップの方がよっぽど不思議だ。

パッケージソフトがきれいな箱に入って1980円で売られているソースネクスト現象 *1を考えると、 ソフトウェアそのものはもう日用品と同じように どこでも安価に手に入るものになってしまっている。

ソフトウェアを生産する手間とコストを考えると不自然かもしれないが、 これが現実だ。世の中はそうなってしまった。 ソフトウェアそのものはもはやほとんど価値がないのだ。 例外は、独占的なポジションのソフトウェアや薄利多売できる体力を持つプレイヤーだけだ。 残念なことに。

こんな世界で 私たちのような「スモールプレイヤー」が生き残るための有効な武器が オープンソースである。

もちろん多くの人はそのやり方にリスクを感じたり、 仕組みが理解できず(不思議な怪物のように感じられて)尻込みしてしまい、 その武器を使うことができないだろう。 あるいは、たとえその武器を手にしたとしても使いこなせない人もいるだろう。

それは自然なことだ。ビジネスは誰にでも簡単にできるわけではない。 オープンソースをうまく使いこなせることが差別化となり、 生き残りの重要な要素になる時代が来ていると感じている。

なんてなことが、この先、上記の連載で論じられるとよいな、と期待している。

*1  PCゲームCD-ROMが100円ショップで売られている「ダイソー現象」でも良いが


2004年10月22日

_ [言語]「Curl」言語普及促進へ新会社

「カール・アジアパシフィックを吸収合併した上で新会社「カール」(仮称)を設立」ということだそうだ。 この報道からは、会社の名前が変わるだけなんじゃないかという気もしないでもないが、 いずれにしても、ぜひ頑張っていただきたい。

「カール」(会社の方)は言語ビジネスの希望の星だ。 ぜひ成功して、言語も商売になることを示していただきたい。 そして、できれば成功の秘訣を見せてほしい。

_ [知財]松本零士氏の珍妙なる主張

先日のエントリの「120年」ってのも、 彼の主張からのパクリだったわけだが(出所を明示すべきでしたね)、こうしてまとめられると「珍妙さ」が際だつ。

どうやら、それがどれだけ自分の首を絞めるか想像できないほど、衰えてしまわれたか。 過去の「創作造語」が使えない世界は、 クリエータ(松本零士氏も(少なくとも、かつては)その一員のはず)にとって大変住みにくそうだ。

「宇宙戦艦ヤマト」 - 「戦艦大和」の盗用
「銀河鉄道999」 - 「銀河鉄道の夜」からの盗用
「ロボット」 - 「R.U.R.」からの盗用
「ワープ」 - 「Star Trek(あるいはそれ以前のSF)」からの盗用

過去のアイディア、造語の流用が許されない世界は地獄の隣くらい不毛な世界ではないだろうか。

えー、それともあれですが、「心に棚を作れ」と。 「私は過去さんざん「盗用」してきたが、その時点では規制がなかったから問題なし。 しかし、これからの世代は私たちの利権を守るため、盗用は許されない」とか。

子供時代にはファンであった松本零士氏が、そんな自分勝手な人物でないことを希望する。もちろん作品と人格は別物なわけだが。 松本零士氏には、これらの指摘に堂々と反論していただきたいものだ。

追記

このエントリを私のオリジナルだと思ってリンクしてくださる方がいらっしゃるようですが、 上記の内容は『万来堂日記』の 9月22日のエントリそのままなんで、 そちらがオリジナルです。 お間違いなきよう。リンクを張るならそちらにどうぞ。

私は自分の言葉で言い直しただけで、新しい知見は一つもありません。

_ [OSS]関西オープンソース 2004

会社のうちのチームの連中はこぞって関西オープンソース 2004に行ってしまった。 一人取り残された私は月曜日のRuby講習会初級コース前半(2日コース)のスライドの準備。

ところで、妻は臨月でそろそろいつ産まれてもおかしくないのだが、 仮に月曜日に出産なんてことになったらどういう事態になるのだろうか。不安だ。

そうならないことを祈ろう。


2005年10月22日

_ [Ruby]block local variable propagation

木曜日に同僚やお客さんと豆腐料理の店で食事をしているときに話題に登ったのだが、 もう何年も前に温泉に入っているときに思い付いた、ブロックローカル変数問題を解決する究極のアイディアがある。

当時は複雑すぎて受け入れられないかも、と思って放置しておいたのだが、 数年ぶりに改めて考えてみるとこれって結構良いかも。 そんなに複雑でもないし。現在のRubyパーザにだいぶ手を入れないと実装できなそうだけど。

で、「ブロックローカル変数問題」とその解決策である「block local variable propagation」について詳細に説明するには、この余白は狭すぎる...じゃなくって、時間と気持ちの余裕が足りないのだった。

また今度の機会にね。


2006年10月22日

_ [教会] 礼拝

RubyConfに参加している末日聖徒4人がホテルの一室に集まって聖餐。 これははじめての経験だ。 お互いに証を述べあう。私にとっては英語なのが辛かったが(聞く方はあまり問題なし)、 大変貴重な経験だった。

_ [Ruby] RubyConf3日目

最終日。個人的にはキーノートも終わってだいぶテンションが落ちている。 それに原稿(日経ソフトウェア)の〆切も気になるし。

Streamlined: A Framework for Data-centric Web Applications

なんか、Railsのビュー部分を自動生成するとかいう話だったらしい。 出席できず。

YARV: on Rails?

なんか見たようなスライドの使いまわしもある。 AkihabaraとかOtakuとか話してるが、あまり通じてないなあ。 こちらでは「おたく」と「Rubyユーザ」では層がかなり違うみたい。 ウケないので次回からは考え直した方がよさそうだ。

後、台本も用意しよう。いや、してたみたいだけど、 「その場で読める」台本を用意したほうがいいと思うよ。

このプレゼンの主眼は

  • YARVでもRailsが動くくらい完成度が高くなりました
  • YARVからiTunesが操作できます

というところだったと思うのだが(前日ぎりぎりまでデバッグしてたし)、 なんかネタの提示のタイミングの問題で、前者は「ふーん」という感じ、 後者は前日のLaurentの二番煎じにしか見えなかった(事実そうなんだけど)ので、 ウケなかった。

というわけで、私の印象としては、

  • 事前の期待
  • 実際にやったことの価値

に比べて、伝えられたものが少なくもったいないなあ、というもの。 RubyConf 2006モースト「もったいない」賞を進呈しよう。

You got your Ruby in my CLR

John LamがRubyCLRについて語る、というもの。

1.8.2との互換性を自慢していた。 実際、あまり知られていない個人プロジェクトの割に完成度は高いと思う。 後は実装についても少々。

で、後でITmedia エンタープライズで「Ruby専門家がMicrosoft入り」を読んでびっくりしたりして。 情報が遅い。もしかして私がぼーっとしている間に彼が話してたのかな。

Google Summer of Code Student Talks

いろいろ。印象に残ったのはSymbianでRubyを動かした話。 以前Pythonが動いていてうらやましいと思ったのだが、 Rubyも動くよ。まあ、SymbianがPOSIX互換層を用意してくれたからできたんだけど。 でも、スレッドとかいろいろ動かないそうだ。

_ 国家の損失?

会場で「私は中国人なんだけど、日本ではRubyを公開することで国家の情報の漏洩だ、とか言われることはない?」って聞かれた。

ブルース・リーはカンフーを西洋に紹介しちゃったせいで迫害された(そうなの? 知らなかった)んだけど、日本ではそんなことないかって。

で、「日本では国家はそんなに国民をコントロールしてないんだよ。実際、私はRubyを開発するための公的資金援助(未踏のこと)受けたことがあるしね」と答えたら、 「ああ、国家の名誉のためね」と変な納得のされかたをした。

国家のあり方は国民の発想に強く影響を与えるらしい。

_ [Ruby] デンバー合意

カンファレンス終了後の一室でなされた合意。

要旨は以下の通り。

  • CVS 1.9へのコミットは停止
  • YARVとCVS HEADをマージしたものを用意(subversion)
  • 1.9はそちらのsubversionに移行
  • 1.8は安定化
  • 卜部くんが1.8メンテナー
  • BTSにunverifiedカテゴリを新設

1.8の安定化とYARVのマージが進むことが期待される。


2007年10月22日

_ [Ruby] UK STUDIO - iPod touchでRubyを動かす

iPod touchでRubyを動かすための手順の詳細。

こういうのを見るとiPod touchほしくなるなあ。

もっとも携帯音楽プレイヤーを使わない私には 厳密にはPDAとしては使えないiPod touchは少々合わないのだが。

_ [Ruby] Rubyの生みの親まつもとゆきひろさんインタビュー

ドリコムアワードの件で松江に来ていただいた時の インタビュー。

ドリコムアワードの審査は結構大変だったのだが、 やはり「私ならでは」という基準を期待されているのだろう と思って他の人とは違いそうなものを選んだのだった。

_ [Ruby] 日本経済新聞社訪問

日経に母校(大学)の先輩がいらっしゃって、 その方がお話ししたいということで、日本経済新聞社を訪問。 子会社のBPには日ごろからお世話になっているけど、 日経本社ははじめて。

いろいろな話を聞かせていただく。 また、プログラミング言語周辺の(偏見の混じった)意見も述べさせてもらう。

貴重な時間であった。

_ [Ruby] 島根県企業立地セミナー

その後、同じく東京駅近辺(パレスホテル)で、 島根県企業立地セミナーで講演。 微妙に遅刻して、スタッフの方に心配をかけてしまう。 ごめんなさい。

島根県はもともと製造業を対象に企業誘致活動を 継続してきていたのだが、今年、知事が代わったこともあって、 IT系企業に焦点を絞った活動をするのだそうだ。 今までのコネクションが少なくどうなることかと思ったが、 いざ会場まで出かけてみると予想以上に盛況であった。 めでたし、めでたし。

で、島根県知事や松江市長が並ぶ中で、 なんかその辺のプログラマが偉そうにしゃべらなくてはならないと言うのは それなりに恐れ多いことである。

あ、島根県(と松江市)のIT企業誘致政策は、かなり厚遇で、

  • 家賃免除(県から半額、市から半額)
  • 電気代半額免除
  • 通信費(ネットワーク接続費)補助
  • 航空運賃半額補助

など。なんか小規模な企業ならほとんど負担なしに進出できるような..。

あと、私に続いて、 県の県境者の人がバーチャルリアリティ研究の成果を報告していらっしゃった。 こちらはずっと地に足がついた(金になりそうな)話で 実際に事業がいくつか進んでたりするようだ。 意外な技術が蓄積されていると。

あ、Rubyの事業も発展中ですよー。

このイベントについては、ITProに記事が出ている。

懇親会も大変に盛況で、あやうく飛行機を逃すところだった。

_ [Ruby] 「国内最大規模」,カカクコムがRuby on Railsで月間380万ユーザーの「食べログ.com」を全面再構築:ITpro

で、講演でも引用し、ちょうど今日、正式発表になったのが、これ。

カカクコムの「食べログ.com」が Ruby on Railsに移行完了という話。

実は、食べログの移行は8月に行われる予定だったのだが、 性能その他で問題が発生し、途中では「Railsはやっぱりやめようか」という話まで出ていたとか。 その後、うち(NaCl)とスマートスタイルが お手伝いしたこともあって、期待されていた性能を達成して、 10月22日運用開始ということになったとのこと。

ちょうど懇親会にいらっしゃっていたスマートスタイルのCTOにお話をうかがったところ、 MySQLのチューニングが大きな課題であったとのこと。 スケールするシステムは、それなりにノウハウが必要であるという ある意味あたり前のことが、また明らかになったということか。

_ 新刊「ウェブ時代をゆく」11月6日刊行 - My Life Between Silicon Valley and Japan

4480063870 梅田望夫さんの新作『4480063870』が刊行されるという話を聞く。

一番驚いたのは目次に私の名前が登場していること。 えーっ。

目次
序章 混沌として面白い時代 
一身にして二生を経る/オプティミズムを貫く理由/「群衆の叡智」元年/グーグルと「産業革命前夜」のイギリス/学習の高速道路と大渋滞/ウェブ進化と「好きを貫く」精神/リアルとネットの境界領域に可能性/フロンティアを前にしたときの精神的な構え
第一章 グーグルと「もうひとつの地球」
営利企業であることの矛盾/グーグルはなぜこんなに儲かるのか/奇跡的な組み合わせ/グーグルの二つ目の顔/「もうひとつの地球」構築の方程式/「経済のゲーム」より「知と情報のゲーム」/利便性と自由の代償としての強さを
第二章 新しいリーダーシップ
人はなぜ働くのか/まつもとゆきひろが起こした「小さな奇跡」/オープンソース成功の裏には「人生をうずめている人」あり/ウェブ2・0時代の新しいリーダー像/ウィキペディアのリーダーシップ/「知と情報のゲーム」と「経済のゲーム」の間に起きる齟齬/事業機会を失ってもコミュニティの「信頼」を/なぜネットでは「好きなことへの没頭」が続けられるのか/良きリーダーの周囲に良き「島宇宙」ができる/総表現社会参加者層の台頭
第三章 「高速道路」と「けものみち」
高速道路を猛スピードで走る少女/日本のシステムで息苦しい思いをしている人のために/「高く険しい道」をゆくには/「見晴らしのいい場所」に行け/高速道路を降りて「けものみち」を歩く/「五百枚入る名刺ホルダー」を用意しよう/「流しそうめん」型情報処理、つながった脳、働き者の時代/「けものみち力」とは/正しいときに正しい場所にいる
第四章 ロールモデル思考法
ロールモデル思考法とは何か/なぜ「経営コンサルティング」の世界に進んだか/ロールモデルの引き出しをあける/「十九世紀初頭の新聞小説」とブログ/日本の若者を応援するときのロールモデル/自分の志向性を細かく定義するプロセス/ブログと褒める思考法/生きるために水を飲むような読書、パーソナル・カミオカンデ/行動に結び付けてこそのロールモデル思考法
第五章 手ぶらの知的生産
知のゴールデンエイジ/世界中の講義・講演を瞬時に共有できる時代/十年後には「人類の過去の叡智」に誰もが自由にアクセスできる/手ぶらの知的生活/これからの知的生活には資産より時間/ネットは知恵を預けると利子をつけて返す銀行/「文系のオープンソースの道具」が欲しい/群衆の叡智を味方につける勉強法/ネット空間の日本語圏を知的に豊穣なものに
第六章 大組織VS.小組織
情報共有と信頼/やりたいと思う仕事に自発的に取り組む/情報共有と結果志向型実力主義/有事には情報共有を前提とした組織になる/小さな組織は情報共有で強靭になれる/小さな会社で働き、少しでもいい場所に移ろう/「三十歳から四十五歳」という大切な時期を無自覚に過ごすな/自らの内部にカサンドラを持て/「古い価値観」に過剰適応してはいけない
第七章 新しい職業
「新しい職業」と「古い職業」/「新しい職業」の誕生を信じる人は「ウェブ・リテラシー」を/オープンソースが生んだ新しい「雇用のかたち」/「志向性の共同体」とスモールビジネスの経営/スモールビジネスとベンチャー/ビル・ゲイツの後半生を徹底肯定する/世界の難題の解決にネットが本格的に利用される時代
終章 ウェブは自ら助くる者を助く
人工国家に似た「もうひとつの地球」ができれば/より求められる「自助の精神」/サバイバル優先、すべては実力をつけてから
あとがき

「小さな奇跡」って、そんなの起こしたことあったっけか。


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