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Matzにっき


2003年05月16日 IPSJ-HI 103

_ [Ruby]feature freeze

昨日宣言したfeature freezeだが、 忘れないうちに検討項目をリストアップしておこう。

バグ修正

仕様検討

忘れたもの、落ちているものがあればツッコんでください。

_ 東京へ移動

IPSJ-HI 103のために 東京に移動。朝8時出雲発のJAL(旧JAS)、機体はA300。しかし、なんでこんなに混んでるの。

半年ぶりの東京は人が多い。勘弁してほしい。

_ [プレゼン]IPSJ-HI 103

予想以上に人が多い。80名ほどの出席だろうか。 で、「ユーザインタフェースとしてのプログラム言語」というようなネタで1時間ほど。 より正確には 「良いプログラミング言語をデザインする間で学んだ、良いインタフェースを作るための原則」 というような話題かな。 発表資料は近日公開。

発表の後、中小路先生が 「今年のSIGCHIのキーノートで『ユーザインタフェースの本質はEmotionである』との発言があったが、 私は昨年この話(SS2002)を聞いていたので、当たり前のことと感じた」とおっしゃっていたのが、 なんか自尊心をくすぐって、嬉しかったのだった。まあ、「インタフェースは気分」というのは、 ちょっと考えれば分かる「当たり前」のことかもしれないけど。


2004年05月16日

_ [教会]岡山

岡山で会議。乗せてもらったのでずいぶん楽。 最近は楽してるなあ。

会議では、組織の円滑な運営についてとか、 適切な動機づけなどについて話し合う。 が、なかなか具体的な行動計画に結びつかない。

というか、たぶん私がドラスティックなものを求め過ぎてるんだな。 地道な努力を軽視してはいけない。

(抽象的でごめんなさい)


2005年05月16日

_ [OSS] Re: こうもりの言い分

おとといのエントリに対して、 小飼さんから反応をいただく

読んでまず、私の表現の不備に気がついたので訂正しておく。

オープンソース・エコシステムによって再生産的に開発されているオープンソースソフトウェアはまだほとんどない

この表現は自明ではないし、実際に小飼さんにも私の意図とは違う読み方をされてしまった。 これは私の落ち度だ。

私の意図は、「コミュニティから草の根的に発生したのではなく、オープンソースビジネスを標榜する企業によって主体的に開発がスタートされたオープンソースソフトウェア(で、成功したもの)はほとんどない」ということだった。前のエントリで「オープンソース・エコシステム」という言葉に対して「ビジネス臭」を強調していたのは、オープンソース企業を強く意識してのことだ。ビジネスが関係ないなら「フリーソフトウェア・エコシステム」と呼んだことだろう。

さて、訂正したところで続きを論じる。

小飼さんは

「だいたいなんでオリがこんなこと言わなきゃならないんだYo?」を「わかってもらえ」なかったことだけが悲しい。

と述べておられるが、正直な話、私にはわからない。わかってあげられない。 小飼さんは「なんでこんなこと言わなきゃならない」んだろう。

あのEntryは「John Orwantが投げつけたマグカップ」と同じだ。必要だったのは結論ではなく疑問の提示だ。

とおっしゃっているが、その疑問とはなにか。

John Orwantは「Perlの開発が停滞している」ことを劇的な方法で示すためにカップを投げたそうだが、 小飼さんがあそこまで怒って(or 怒ったフリをして)表明したかったモノはなにか。

わからない。

いや、表面的には全くわからないでもない。

すでに「コーダーのためのガード下の焼き鳥屋」はヴァーチャルにもリアルにも存在する現在,必要なのは「あたたかい理解」ではなく、「冷たい現実の認識」ではないのか?

とある以上、「コーダーよ、現実を認識せよ」ということが言いたいのだろう。 が、コーダーは現実を認識していないのか。本当に?

あるいはコーダーに「冷たい現実の認識」がなかったとして、 それは問題を引き起こしているのか。本当に?

私にはそういう意識はない。自覚がないのが問題だ、と言われると返す言葉がないのだが、 それならそれで「これこれこうだから問題だ」と指摘してもらえると、 「問題」に対処できるようになるのでありがたい。

この一件に関して私が認識できる問題があるとするならば、 それは「わかってもらえない」ことにあると思う。 この「わかる」は「理解する」よりもむしろ「共感する」の方の「わかる」である。

Tachさんも言及していたが、 コードを書く人間はコードを書かない人間のことがある程度「わかる」。 しかし、コードを書かない人間のほとんどはコードを書く人間のことが「わからない」。 が、オープンソース・エコシステムにおいてコード(を書く人間)がクリティカルな要素である以上、 ビジネスの論理、スーツの論理で口出しするのは生態系をゆがめかねない。

私は、三浦さんはそういうことを意識して発言したのだと推測するし、 その発言には共感できる。 で、今回の小飼さんの発言「コードだけでOSSの世界が回ると思ってんのか」からは、 それでなくてもエコシステムの中で搾取されがちなコーダーの気持ちを 共感してもらえてるとは感じられない。

それは問題ではないのか。 実際に小飼さんが共感しているかどうかは別として、そういう印象を与えてしまうということは。 コーダー(ギーク)が「スーツに共感してもらっている」という印象を持てるということが、 オープンソース・エコシステム全体に対して有益だと思うのだがどうか。

知らない人もいるかもしれないけど、私は小飼さんに何度も会ったことがあるし、 ある程度小飼さんがどんな人間なのか理解しているつもりだったから、 この発言には少なからず驚いている。 私と小飼さんはある程度「似た者」だと思っていたから。

違いと言えば「私はRubyで小飼さんはPerl」、「私はビンボーな雇われで、小飼さんはリッチな経営者」というところか。前者はともかく後者はあまりにも大きな違いかもしれないな...。

最後に、私の自明でない表現から生まれた部分なので本筋とは関係ないのだが、 重要なので述べておく。

Matz wrote:

エコシステムがなくなってオープンソースソフトウェアがビジネスに使われなくなったら 致命的かというとそうでもない。プログラマにとってエコシステムはクリティカルではない。

もしこれが正しければ、世のソフトウェアは「俺ウェア」だけでいいということになりはしないか?ただネットにソースを転がしておくだけでも費用は発生しているのである。

大多数のフリーソフトウェアの本質は「俺ウェア」ではないだろうか(その定義はよくわからないけど)。 「俺が作りたいから作る」、「俺が使いたいから使う」、「俺がバグを見つけたから直す」...。

が、フリーソフトウェアでないソフトウェアも数多くあるだけに 「世のソフトウェアは俺ウェアだけでいい」というのは広すぎる言明だと思う。 また、フリーソフトウェアの開発・保守に費用は発生しているのは確かだが、 現実を見るとその費用の相当の割合は開発者自身が負担している。

オープンソースビジネスとえらそうに言いながら、 そのほとんどの実態はすでにあるオープンソースソフトウェアを利用するだけ、 改めて開発を支援することなどしない、という企業*1が数多くある中で、 これ以上開発者に「冷たい現実を認識」させてなにがしたいのか。

追記

ありえる別の問題としては「コードのことしかわからないのに付け上がるプログラマ」というのも あるのかもしれない。が、それはそれ、ビジネスとして接する場合にはビジネスのルールに従うことになるので、ビジネス上は淘汰されるのではないかと(お金を持っている人のほうが強い)。ビジネスと関係ない領域であればプログラマがいくら「付け上がっても」放っておけばよいわけで。

業務連絡。

小飼さんへ。「Matzにっき」では、うちのエントリへの言及/リンクのないトラックバックは削除しています。 私は小飼さんのブログ、毎日じゃないけどチェックしていますから、 「読んでほしい」という理由だけのトラックバックは不要です。

*1  もちろんオープンソースソフトウェアを単に利用するだけでなく、きちんと支援している優良な企業もある。多くないけど。

_ ソフトイーサってこんな仕事

ゴールデンウィーク前の記事だが、風邪引いたりして紹介するのをすっかり忘れてた。

ソフトイーサで一躍有名になった登くん率いるソフトイーサ社が山崎マキ子の『...ってこんな仕事』のインタビューを受けてます。

って、共同溝に入ってるし。 私が若い頃は「共同溝に入ると除籍」、「松見池の鯉を食べると除籍」、「...すると除籍」と言われていたものなのだが、時代は変わった。

_ 筑波大集中講義

それはそれとして、卒業以来すっかり縁遠い母校筑波大学ですが(卒業後2回しか行ってない、はず)、 今年は新城くん*1の紹介で集中講義を行います。期間は夏休み中の7月。2日間の予定。

さて、なんについて話したもんだか。

*1  同級生で生年月日も同じ。だが、新城先生と呼ぶべきか

_ [OSS] Re: ルービックキューブ

小飼さんからお返事。

「コードも書かない人に言われたくはない」というのは、中坊のころの私だ。受け入れてくれる人たちの手まではねのけていた、あの頃の私だ。

要するに「コードを書かない人の中にもわかってくれる人はいるよ」という意味? まさかそんな単純なこと?

いや、そんなことかも。

でも、私も(おそらく三浦さんも)そんなことはとっくの昔にわかっているんだけど。 小飼さんは三浦さんを知らなくて「15のあの頃の自分と同じだ」と感じちゃったってことなのかなあ。

もちろん「コードを書かない人の中にもわかってくれる人はいる」んだけど、 どーしてもわかってくれない人もいて、 えてしてそういう人の方が力を持ってたりするんだよ。

だから、「コードも書かない人に言われたくない」ってのは、 わかってくれる人も一緒に切り捨てちゃうので問題がある表現ではあるけど、 そう言いたくなる気持ちというのもまた同時に存在するのだ。 私は、この発言は「15の夜」の発言ではなく、 大人の折衝に疲れた「30の夜」の発言だと思う(いや、40でもいいけど)。

だから、私としては代わりにこう言うのだ、 「コード書きの気持ちがわからないとオープンソース・エコシステムで成功できない」と。

ま、それが事実かどうかはともかくスローガンとして。

_ [原稿] 日経Linux 7月号

深夜(というか、早朝か)完了。

前からちゃんと文章にしたいと思っていた

  • 単一継承の欠点
  • 多重継承の欠点
  • 仕様の継承と実装の継承
  • 静的型言語で多重継承が必須なわけ
  • better多重継承としてのMix-in

などについて書けたのは個人的にはうれしい。 が、記事としてみると限られた紙面(8ページ)には詰め込みすぎだったかも。


2006年05月16日

_ [原稿] Pickaxe2

『Programming Ruby』翻訳第2版の原稿チェック。

意外とたくさんチェックする項目があるものだ。 っていうか、第1版と違って(英語の)第2版はほとんど私は手を入れてないからな。 原書の間違いも結構残っているような気がする。

日本語版はより正確になっていると思う。

まだまだ作業は残っている。

_ Are you sure you want to be mainstream?

「メインストリームになってうれしいの?」というのは、 「Ruby(Rails)もっと普及させなきゃ」という助言に対する私からの標準的な返答なのだが、 そのDHH版。基本的に同感。

彼のストレートな性格ってうらやましく思えるときもある。


2007年05月16日

_ [Ruby] 出張講演

東京へ。某外資系企業が社内技術リーダーシップカンファレンスの講師として呼んでくれたからだ。

実は昨日、愛用のThinkpad X31が不調で電源が入らなかったり*1したので、どうなることかと思ったのだが、 人類が数千年前から愛用してきた情報機器(紙とペン)を活用することでなんとかなりそうだ。

羽田から会場までハイヤーが手配されていた。さすがリッチだ。

で、結果からいうと講演は成功だったと思う。 発表内容は英語だったのだが、昨日紹介したRailsビデオも含めて おおむね好評だったようだ。こういう場に呼ばれるということ自体が、 Rubyがメジャー化した証拠だよね。

講演終了後、いろいろと情報交換(雑談とも言う)をした後、 再び羽田までハイヤー。松江に帰る。

*1  Fan Errorだそうだ。検索するとわりと珍しくない症状らしい。今回はファンの掃除でなんとかしのいだ

_ [Ruby] Ruby+アジャイルで変化に強い開発を---永和システムとNaClがタッグ:ITpro

で、メジャー化するとこういう話も来るわけだ。

XPの実践やオブジェクト倶楽部の運営で知られる永和システムと業務提携という話が 発表された。永和さんはうちよりずっと規模が大きいのにこうやって話を持ちかけてもらえるというのがありがたいことだ。

_ [OSS] 野村総合研究所 オープンソース救急センター | オープンソースのトラブル、今すぐ対応!

NRIがオープンソースの救急サービスを開始、という話。

自分が提供したプラットフォーム限定で問題解決を支援するサービス(SpikeSourceとか)は あるが、そのような制約の一切ない状況での救急サービスは珍しいのではないか。 一回99万円という値段が高いか安いか判断するのは難しいが、 「気軽に助けを呼べる」というのは安心感を呼ぶし、 こういうサービスが存在しているということそのものが、 保守的な層にオープンソースを受け入れてもらうために有効なのかもしれない。

このサービスのメニューにはRuby on Railsも含まれている。 なぜか「スクリプト系」ではなく「Java系」に分類されているけど。

なんとなく、Rails系の対応を行う人の顔はよく知ってるような気がする(ほのめかし)。

_ [Ruby] Y combinator in Ruby

Rubyでも書けるぞ、という話。 「だからどうした」と言われそうな気もするけど。

_ [原稿] ITmedia エンタープライズ:第3回 ハッカーと仕事 (1/2)

しばらく前にオープンソースマガジンに書いた記事が、また公開された。 今回はハッカーと仕事。

この中で、

この会社はハッカーの扱い方を心得ていて、居心地の良い職場環境を提供してくれています。

という部分に某所でツッコミが入った。要するに「居心地が良い」のは、 まつもとの立場が特別だからで、NaClに入れば天国というわけではないということ。 めちゃめちゃ給料が高いわけでもないし、 仕事の負荷が低いわけでもないし。

私は「フェロー」という立場だし、 私の給料は他の皆さんが稼いでくださっているからこそ払われているわけだから、 ま、ご指摘の通りである。書いた時点では、まさかそういう風に捉えられるとは 想定してなかった。私の想像力の足りなさである。

「良い環境」というのは、「青い鳥」のようなもので「どこかにある」し、 「意外に身近なところにある」というのが言いたかったんだけどなあ。 良い環境は口を空けて待ってるんじゃなくて、 自分で構築していくものだと思う。


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