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Matzにっき


2003年10月08日

_ [OSS]オープンソースエンジニアへの道

トラックバックをきっかけに梅田さんからも反応をいただいた。

「筆者(梅田)がどういう意図で、どんな読者を想定してこの文章を書いたのかよくわからんが・・・・」みたいなことが書かれていたので、

とあるが、私としては「よくわからない」ではなく「推測による断定は避けたい」というニュアンスだったのだが。 まあ、いいや。いちいち私の文章まで目を通していただいた梅田さんには感謝したい。

さて、荒川さんのコメントに戻ろう。私もしつこいとは思うが。

おっしゃることはもっともですが、それは「まつもとさん」だから言える事ではないでしょうか。

(その後のコメントで)

私は凡庸な「その他大勢」の職業プログラマです。「オープンソース・エンジニア」の暮らしはある種の理想ですが、現実的な距離には存在しません。どうしても「オープンソース・エンジニア」たろうとするなら理想と現実を埋める「何か」が必要です。梅田望夫さんのコラムには「何か」を暗示するものがありますが、失礼ながらまつもとさんのコメントにはそれが見当たりません。

先の「にっき」では、荒川さんが期待している「何か」についてはそもそも扱ってはいなかったのだが、 ちょっと面白いので改めて考えてみよう。

まず、最近しばしば「まつもとさんだから」とかいうニュアンスの発言を耳にするのだが、 なんか「お前は特別」と言われているように感じるのだが、実際には私はあんまり特別ではない。

より正確な言い方をするならば、「私の現在のポジション」は特別だが、 私というエンジニアはそれほど特別ではない。 技術力という観点からみれば、どちらかというと凡庸な部類だろう。

違いがあるとするならば、フリーソフトウェアの開発にかけてきた時間と熱意と、それから若干の幸運だろう。

それが「何か」である。 オープンソースエンジニアになるために必要な「何か」は、 口をあけて待っていることではなく、そのために一歩踏み出すことではないかと。

もっとも、一口にオープンソースエンジニアといってもさまざまだ。 ここでは私の知っているいくつかの種類のオープンソースエンジニアと そこへの道を紹介してみよう。 ここではオープンソースエンジニアを「オープンソース開発によって生活するエンジニア」と定義する。

まず、第一にはオープンソース周辺エンジニアがあるだろう。 つまり、オープンソースソフトウェアを使ってソリューションを構築し、 必要に応じてオープンソースソフトウェアそのものに手を入れるエンジニアだ。 現在ではオープンソースソフトウェアをコンポーネントとしてソリューション構築している企業は かなり多くなっている。そういう会社に転職すればこのタイプのエンジニアになるのは非常にたやすい。 あるいは自分が現在所属する企業を説得するという手もありえないことはない(難しいだろうけど)。

次に考えられるのは、企業内オープンソースエンジニアだ。 これは企業が開発するオープンソースソフトウェアの開発担当エンジニアだ。 これもそのような企業に転職することが必要なアクションだ。 また、そのような企業に所属するだけでだれでもこのタイプのエンジニアになれるわけではない。 企業としてそのようなプロジェクトを任せられるようなエンジニアである必要もあるだろうし、 多分に運も必要だ。

ちなみに、うちの会社でも、 これらのタイプのエンジニアを募集している。 私の目の前には実際に業務命令でオープンソースソフトウェアを開発しているエンジニアが何人もいる。 うちの他にもこのような企業は、まだ多くないが、いくつも存在している。

最後に、これがオープンソースエンジニアとして一般にイメージされるものだろうが、 自分が好きで始めたプロジェクトが認められ、その開発だけで給料をもらい、 生活を維持するエンジニアがいる。 しかし、正直なところ、このタイプのエンジニアは非常に少ない。日本でも数人しかいないんじゃないかな。

このようなエンジニアになるためには

  • 自分の時間と熱意をつぎ込んでオープンソースソフトウェアを独力で開発し、
  • そのソフトウェアが世間で認められ、
  • そのソフトウェア(と開発者であるあなた)の価値を認める企業に出会う

必要がある。これは大変な時間と熱意と幸運が必要だ。 もっとも、状況は10年前よりは確実によくなっている。5年後にはもっと良いだろう。 問題は「あなた」がそれだけの時間と熱意をかけられるか、 オープンソースエンジニアになるためのアクションを取れるか、という点にある。

今のままの生活を取るか、夢(と理想の生活)を取るか。no pain, no gain.

追記

誤解されないようにはっきり書いておこう。現在なら、 ただ単に「オープンソースにかかわるエンジニア」になるのはたやすい。 しかし、私は「あなたのなりたいオープンソースエンジニア」になるのは簡単だとか いうつもりはない。それは人によって違うし、自分の人生は自分で決めるものだ。

_ [tDiary]トラックバックのRD

先日トラックバックを送ったら、excerptがRDのまま送ってしまったので、 きちんと表示されない。これはやはりHTML化して送るべきではないだろうか。

ということで、修正。plugin/tb-send.rbを以下のように変更してみた。

#   excerpt = @cgi.params['body'][0] if excerpt.empty?
    excerpt = @diaries[@date.strftime('%Y%m%d')].to_html({}) if excerpt.empty?

まだ、きちんとテストはしてないし、そもそもtDiaryの構造がよくわかってないのだが、 なんとなくHTML化しているようだ。

_ [OSS]価値あるものは金になる

私のここ数日の論の前提には、おそらく「価値あるものならば、それは金になるはずだ」というのがあるのではないかとのツッコミ。

一般論としては確かにそう思っている。 もちろんオープンソースソフトウェアと一口に言ってもそれぞれで、 金になりやすいもの、なりにくいもの、 あるいは成功するもの、失敗するものがあるだろうが、 そんなことは当たり前のことだよね。

私が言いたいのは、「できる」、「昔よりは簡単になっている」ということで、 「誰にでもできる」、「努力なしでできる」と言ってるわけではない。

また、オープンソースで生活できるからと言って、 誰もがそういう道を選ばねばならないわけではない。 束縛を嫌って生活のかからないかかわり方を選ぶ人だっているだろう。 それはそれで立派な態度だ。


2004年10月08日

_ [特許]KodakとSun、オブジェクト特許で和解

ITmediaニュースより。

話題になったかと思ったら、あっという間に和解しちゃいましたよ。

Groklawによれば、 結局Sunが9200万ドル支払うことになったらしい。 Kodakの主張する損害額は16億ドルだったから、ずいぶん安くあがったと考えるべきなんだろうか。

私の立場から言えば、最悪ではないとは言え、かなり悪い結果だ。 この特許の危険性は変わらないわけだし、Kodakは望むなら相変わらず次の犠牲者を探すことができる。 ビジネスとしてどうかはともかく、 Sunには徹底的に戦ってこの特許の無効性を示してほしかった。

Sunのプレスリリースによれば、

"Sun's Java Communities represent the future of the Internet. The Communities' vitality, along with the safety of every other open community in which Sun participates, from OpenOffice.org to the upcoming open Solaris(TM) OS community, are of paramount concern to us," said Jonathan Schwartz, president and chief operating officer, Sun Microsystems Inc.

要するに、この和解はJavaやOpenOffice.orgのために、 ということだが、戦ってこの危険な特許という「地雷」を永久に取り除いた方が「ためになった」と思う。 残念だ。

あるいはアメリカの特許制度ではこの地雷をどうにもできないから、 敗けないために和解したのだろうか。だとすると、もっと残念だ。

_ テレビ番組の録画サービス、東京地裁が差し止め命令

NIKKEI NET:社会 ニュースより。

いやね、この判決そのものは妥当の範囲内だと思うんだけど、 じゃあ、テレビ局がこのサービスに類似したものを自分で行うとか、 認可した業者に行わせるとか、そういう動きは全くないんだよね。 ということは、結果的には一般消費者に不自由を背負わせるだけではないか。

テクノロジーによって開けた可能性を、 変化した状況に対応していない法律によって潰してしまった例と見える。

そういう観点からは、原告側の

主張が認められ、デジタル化・ネットワーク化の時代における著作権保護の一つの指標として意義深い

というコメントは薄ら寒い。まったく逆じゃん。

コピーワンスの件もあるし、 放送業界は新しいテクノロジーに対応する気がないらしい。 大量のコンテンツを抱えつつも沈没していく気なのだろうか。 野球と同じ道か。

まあ、最近テレビあんまり見ないから、いっそ沈没しても構わないような気がしてるんだけど。

_ rubyist.netドメイン

そろそろexpire期日なのだが、最近はドメインの値段も下がってきたので、 もっと安いドメイン業者に移行しようと思っていたのだ。

ところが、domain transferにはexpire10日以上前でなければならないのだ。 今日は8日、期限は13日。だめじゃん。

結局、今まで通りの業者で手続きしました。2年で$30。損した気分だ。

_ Amazonアソシエイト支払い履歴の罠

損したと言えば、Amazonアソシエイツで、 2重払い扱いになっているという話を聞く。調べてみたらうちも該当してたよ。で、さっそくメールで問い合わせて修正してもらった。

一気にアカウント残高が増えたのは嬉しいが、損してたのを取り返しただけなので、 嬉しいと思うだけ損のような気が。

ところで、Amazonもミスがあるのは分かってるんだから、データベースをスキャンして、 全部修正しておけばいいのに。 言われなきゃ放置というの不誠実な気がするし、 黙ってりゃこっち(Amazon)が得するなんてのは不心得な態度だろうし。


2005年10月08日

_ 浜松(1日目)

今日から浜松へ旅行。帰省とかの用事のない家族旅行というのは本当にひさしぶりかも。 まあ、今回も私の両親を訪問するという目的はあるんだけど。

早朝、自宅からタクシーで玉造温泉駅まで。 玉造からスーパーやくもで岡山まで。 あいかわらず揺れるので気持ちが悪い。

スーパーやくもは指定席が満席でとれず、禁煙自由席が満席だったので、 喫煙可の自由席に座らざるを得なかった。だいぶ苦痛だったが、 昔ほどタバコをふかす人が多くなかったので、助かった。

岡山からはひかり。今回はレール&レンタカーを選択したので、のぞみは使えない。 今考えると大阪まで往復割引を買って、大阪から浜松までをレール&レンタカーで買えば良かったのかもしれないな。いまさら言ってもしょうがないことだが。

名古屋。懐かしい街ではあるが、今回は乗り換えだけ、しかも5分。

今度はこだまで浜松まで。駅に着いたら、妻は駅前の店を見たい、とのこと。 洋服や生地を売っていた店なのだそうだが、ときどきフラッシュバックのように思い出されるのだそうだ。まあ、そういうことってあるよな。私も20年近く前に一度だけ歩いた道をふっと思い出すことがあるもの。で、目的の店はまだあったが、当然といえば当然だが10年前とは様子が変わっていたそうだ。 品揃えも違っていたとか。ま、そんなもんだ。

レンタカーを借りる。チケットを購入した時点では「普段運転しているプレマシーではない車」ということで、日産ラフェスタを希望したが、「用意できそうにない」との連絡を受け「プレマシー以外ならいいです」と答えたのだが、実際にはラフェスタが用意されていた。あまり格好の良い車ではないが、両側スライドドアが使いやすい。

借りた車は、最近のレンタカーなら当然なのだろうが、カーナビ装備。 これがとても便利だった。10年前の道の記憶はほとんど薄れており、 かなり怪しかったのだが、ナビのおかげで迷うことなくあちこち行けた。 日常生活では使わないおもちゃなのだが、知らない街では本当に便利だ。 もっとも後ろから見ていた妻は「画面を見つめすぎて危険だ」と感じた、とか。 やっぱディスプレイは危険か。

これまた妻の記憶に残っている場所ということで入野のジャスコにも行ってみる。 が、ここもまたまったく違っていた。

その後、教会によってから、昔の会社の同僚のおたくに訪問する。 元同僚があつまってちょっとした同窓会のようだった。 生後半年の赤ちゃんがいてねえ。ついこのあいだまではうちの末の子もこれくらいだったのだが、 もう記憶が薄れている。この頃は変化が早いからねえ。いまじゃ、てくてくどこまででも歩くものなあ。 同僚と別れて、 両親と合流。夕食。回転寿司へ。 しかし、大きな街には単に回転寿司といっても何種類も店がある。 ちょっと感動してしまった。考えてみたら、浜松市だけで島根県の全人口より多いに違いない。 合併前でも鳥取県より多かったのだから。

食事後、旅館へ。今晩は駅近くの「山水」という旅館へ。 古めかしい作りや急な階段がレトロな雰囲気。

子供達は感動していた。

_ Protothreads: lightweight, stackless threads in C

Rich Kilmerから紹介されたライブラリ。前にもチェックしたような気がするけど、 詳細は忘れてしまった。後でまた調べてみよう。


2006年10月08日

_ 総大会

今日は家族全員を連れて米子へ。総大会ビデオ鑑賞。

どうせしばらくしたらDVDやら記事にまとめたものやらが入手できるから と思ってメモを取ることもしなかったんだけど、 やっぱり取った方がよかったから。取ってた方が集中力が維持できる、かも。

ベドナー長老の「あなたは周囲の状況に対する反応を選ぶことができる」という言葉が 印象的だった。トラブルに遭遇しても、2ちゃんねるで悪口を言われても、 怒るのか、改善点だけ引き出して冷静に対応するのか、 不親切に親切で返すのか、それを自分で選ぶことができる。 当たり前のことだが、なかなか自覚的にはできない。

最近は少しマシになった(と思いたい)けど、 もともとは瞬間湯沸かし器のように怒りっぽい人だものな、私は。

言わんでもいい厳しい言葉を吐いて後悔したこともたびたび...。

もっとマシな対応を選ぼう、意識して良い対応を選ぼう。


2007年10月08日

_ ユメのチカラ: blogのバックアップ

Matzにっきでも、先日2006年2月分がふっとんだ。 データファイルがサイズゼロになっていたのだ。

以前にも同じような目にあったことがある。 tDiaryのせいか、Rubyのせいか、それともmod_rubyのせいかは 全然わからないけど(Rubyのせいなら人を責められないな)、 ごくまれにそういうことが起きるようだ。

で、バックアップを取り出そうとしたが、見つからない。 そういえば、バックアップは hydrogen.ruby-lang.org においてあったんだっけ。 が、このマシンはずいぶん前からマシン不調のため停止していたのだった。

このために久しぶりに電源を入れ直したら、ブートしない。 どうも本格的に駄目になってるようだ。

ディスクだけでも取り出して、とも思ったが、 コネクタの形状が見たことのないもので、とりあえず 普通にはつなげそうになかった。HPのサーバマシンなんだが。

というわけで、今でも2006年2月分のデータは失われたままなのであった。

残念。

_ [言語] Nati Shalom's Blog: Why most large-scale Web sites are not written in Java

なぜ多くの大規模サイトでJavaが使われていないのか、という話。

Flickr, Youtube, Digg, MySpaceなど(英語圏で)著名な 大規模サイトのほとんどはLAMPを使っていて Javaメインで開発しているところはあまり見かけない。

それはどうしてだろうか、という問いかけ。

おそらくは、この「使われていないリスト」のエントリには 「Web2.0」っぽいサイトが圧倒的に多く、 そういうところでは立ち上げ時に「硬さ」よりも「早さ」や「安さ」が重視される 上に、ユーザが増えてきても「じゃあ、Javaで書き直し」という話にはならないから ではないだろうか。

コメントでも「ビジネスロジックが重視される航空会社や銀行ではJavaが多い」という 指摘もある。


2008年10月08日

_ [Ruby] default_internal

[ruby-core:18985]で提示されたパッチをベースに取り込む。 ただし、マジックコメント拡張は取り込まなかった。

あとは-Uオプションの実現か。それと 各種ライブラリのdefault_internal対応。 readlineとか。

悩んでいるのは、default_internalが指定された時に、 scriptを読み込んでくる時にscript encodingから default_internalに変換するかどうか。

default_internalは内部エンコーディングなのだから、 リテラルのエンコーディングと一致していた方が 使いやすいだろうが、 default_internalの方が表現できるレパートリーが小さかったりすることも 考えられるわけで(script encodingがUTF-8、default_internalがEUC-JPとか)、 そういうことを考えるとむやみに変換しない方がよいような気もする。

_ 宮崎講演「Rubyと地方から発信するオープンソース」

とかいうようなタイトルで講演。

その後、元Sunの樋口さん(宮崎出身)の講演とか、OpenOffice.orgの講習会とか。 私は飛行機の時間があるので、途中で失礼して、昼食をいただいた後 空港へ。

家族の希望により東国原知事のグッズ購入。って、ほんとにこんなのがいいの?

_ 広島西空港

宮崎からSAABで広島西空港。 そんな空港があるのは知らなかった。 広島空港とは別なのね。

バスで広島駅。新幹線で岡山へ。

_ 岡山

岡山の技術者の人20人くらいと夕食(というか飲み会というか)。 大変楽しかった。 特に実際にプログラミングする人と話を出来たのがよかった。

講演とかで巡業(?)すると、結構偉い人とお話しする機会が多くて、 それはそれで貴重なんだけど、やっぱりこういうプログラミングに直結する話題が好きだ。

現状仕事でRuby使えないとか、まだRubyはじめてないとかいう人も多かったけど。 その辺が岡山でのRubyの温度感がわかる。

あと、アエラの記事は結構インパクトがあったみたいで(持ってきてる人が何人もいた)、 こういう場で、キリスト教各宗派の違いなんてネタで話すことがあるとは思わなかった。 びっくり。ちょっと距離感がつかめなくて、どこまで突っ込んで話してよいのか判断しがたかったけど。

_ 原稿

日経Linuxの原稿書き。順調に遅れている(だめじゃん)。

今月(12月号)のテーマは「XML」。

べ、べつにXMLが大嫌いってわけじゃないんだからねっ。


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