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Matzにっき


2006年10月21日 [長年日記]

_ RubyConf 2日目

海外にいる間は、私の時間を世間の時間に同期してくれる「家族」という存在が無いため、 寝る時間や起きる時間が狂いまくる。おまけに時差の関係でSkypeする時間が 早朝とかになるためますます狂う。なんか平均2,3時間しか寝てないような気がする。

Open Classes, Open Companies

test/unitのNathaniel Talbottによるプレゼン。 だが、寝坊して聞きそこねた。

聞くところによると、Rubyとは直接関係なくて Rubyの原則(Open Classとか)をビジネスに適用したらどうなるか(なったか) とかいうような話だった、らしい。

Leveraging Mac OS X from Ruby

AppleのRuby担当者(現時点では「唯一の」らしい)である Laurent SansonettiによるOS Xプレゼン。

っていうか、会場のMac率は異常に高い。 RubyConfやOSCONではMac率は例年高いのだが、 今年はさらに高くなっているような気がする。 プレゼンする人もほとんどMacBookやPowerBookだし。 例外は数人(高橋さん、Evan、私、あともうひとりふたり)くらいじゃないか。

で、RubyからAppleScriptやCocoaを使って iTunesとかをいろいろ操作するデモが受けていた。

こういうのを見てると「RubyでOS Xで(or のために)作られたんじゃないだろうか」 と感じてしまう。実際には私自身はMacユーザだったことはないんだけど。 でも、自宅に一台くらいMacBookがあってもいいかなあ。

安いし(「10万円超は安くないです」と奥さんの声が聞こえるような気がする)。

この後、Laurentとは少し話して、興味深い話が聞けた。

  • Objective-C用のGCはすでに実装がある。Boehm GCではなくAppleが独自開発した
  • conservativeではないのでprotectしてやらなくてはいけない
  • 1.8用パッチは作った。
  • でも、まだNDAを結ばない人には見せられない
  • forkしたくないから将来取り込んでもらえるように調整したい
  • キーワード引数に注目している。Objective-Cのメソッドにマップできるから
  • でも、Hashを使った実装だとうれしくない。Objective-Cだと順序重要だし、重複もありえる。

なるほどぉ。

Rinda and DRb in the Real World

Glenn VanderburgがRindaについて熱く語る。

ここには咳さんがいるべきだったと思う。よろしく伝えてくれとのこと。

よろしく(伝わったかな)。

ここでアトリウムにメールを取りに行ったので、詳細はわからない。 けど、Rindaのことえらい誉めてたよ。

Lightning Talk

Josh Susserによる「More than enough rope to hang yourself」の予定だったが 彼が来れなくなったため、急遽、ライトニングトークに。 しかし、昨日の朝に募集して9件だったか10件だったかが あっという間に集まるというのもなかなか素敵。

しかし、昼飯時からメールの読み書きと原稿書きに追われていたのでほとんど聞けず。

Web 2.0 Beyond the Browser

Rich Kilmerが彼のFlashを使った新サービスについて。

これが本当にWeb 2.0かどうかは私にはよくわからなかったが、 Flashを使ったこれは見ていて美しい。

しかし、彼はこういう見映えがいいものが好きだねえ。

I18n, M17n, Unicode and all that

Tim BrayによるUnicodeの話。

Rubyだめじゃん、というような話かと思ってどきどきしてたのだが、 Unicodeの良いところも悪いところもちゃんとわかっていて、 それをどう取り扱うかというような話であった。

途中「大文字小文字は言語や文化と独立に定義できないからやっちゃ駄目」という発言があって、会場にどよめきが走った。プレゼン後の質疑応答でもそればっかり。

なんでも、たとえばトルコ語では「iの(一対一対応する)大文字」というものは 存在しないのだそうだ。で、どうするかというとロケールを見て、 テーブルをひいて、やたら重たい処理をしなくてはいけない、と。

でも、case insensitiveな処理とかは実際にあるわけで、 それらはどうするのかと聞いたら、

  • 検索インデックスみたいなのは言語情報を使ってテーブルをひく。 インデクシングはもともと重い処理なので問題なし
  • HTMLのタグとか属性名とかはASCIIアルファベットの範囲内だけなので、 その範囲でだけ有効と断言してしまう。範囲外はそもそも無視。

のいずれかだそうだ。他にも正規化などについて尋ねたのだけど、 「万能の解なし」ということで、ケースバイケースで最適なものを選ぶ必要がある という常識的な解答であった。

納得できたので、Stringクラスの大文字小文字を扱うメソッドのRDocに 「ASCIIの範囲だけ有効です」というただし書きを加えた。

Speak My Language: Natural Language Processing in Ruby

ここでの「My Language」は英語のこと。 UnicodeやM17Nの話の直後に英語オンリーの話をもってくるのは なにかの挑戦かと思ってしまいがちだが、 別に狙ったわけではあるまい。

英文を解析してくれるライブラリ。 「Time flies like an arrow」のような曖昧文でも 複数の候補とその重みという形で教えてくれる。

ま、英語処理するときには便利かも。

_ おみやげ

明日は安息日で買い物したくないので、今日のうちにおみやげを手配。

ホテルの売店でぬいぐるみ。 近所のスーパーでルートビアエクストラクトを探すが「ない」とのこと。 隣のドラッグストアでハロウィーン用キャンディー詰め合わせ。 さらに少し行った子供服の店で末娘用のドレスを。半額セールだった。ラッキー。

_ 乾燥注意報

デンバーは乾燥している。 唇が切れてしまったので、日本では使ったことのないリップスティックを購入。 あと、カカトもかさかさになってしまった。

_ [Ruby] implementers' summit

CRuby(私)、YARV(笹田くん)、JRuby(Charles Nutter)、Cardinal(Kevin Tew)、 Rubinius(Evan Phoenix)、その他大勢が集まってミーティング。 なかなか興味深い話ではあったが、デザインの先端、というよりは 1.8の仕様をいかに明確化するか、とか、 1.8でCRuby以外で実装が難しいところをいかに実装依存として分離するか、とかの 話が中心。

Pat Eylerが最後に半年に一回、こうやってミーティングしよう、と wrap upしていたが、我々日本組はどうしたらいいのさ、と思ったのは内緒。 たとえ交通費を手配してもらっても、私は辛いぞ、年に二回の訪米は。

あ、笹田くんに行ってもらえばいいのか。

_ [Ruby] Keynote: Return of the Bikeshed -- or Nuclear Plant in the Backyard.

デザインゲームの話。 Bikeshed(自転車小屋)とは誰もが簡単に口をはさめるため、 いつまで経っても終わらない議題のこと。 が、デザインそのものは面白いネタなので、 いっそ言語デザインそのものを議論することを加速しようというような話。

後で森脇さんに指摘されたが、 もしかすると聴衆は別のタイプの話が聞きたかったのかもしれない。

まあ、いーじゃん、そういう自虐ネタしか話せないんだからさ。

今回はビデオ出力に問題は無かったが スクリプト(台本)用PCが壊れてしまった。やはり呪われている。 台本用PCはBYUの時からディスクが異音を立てていたので不安だったのだが、 案の定だ。 急遽RichのMacBookを借りたのだが、 どうにも見にくくて、大変だった。やはり台本重要。

スライドはこちらビデオもある。 恥ずかしくてちゃんと聞けてない。


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