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Matzにっき


2007年07月20日 [長年日記]

_ 上京

朝の飛行機で東京へ。

まずは品川のソニーで打ち合わせ。 近いうちにソニーの中で講演会をしようという話。

ソニーくらい大きいと社内だけで立派なイベントが開催できるんだねえ。 私の前に呼ばれた講師が世界的なビッグネームたちで(確証が持てないので名前は非公開)、 思わず遠慮しようかと思ったのだけど、そこは説得されてしまった。

_ 楽天技術研究所

で、次に六本木に移動して、午後は楽天技術研究所でのミーティング。

今までのサーベイをもとに今後の方向性について考える。 あまり非現実的で実現できないのも困るが、 かといって「(誰でも)やればできる」というような、 簡単(に見える)ものでも困るということで、悩ましい。

が、方向性は見えてきたかな。

途中はともかく、最終成果はオープンソースにできるように念を押す。 好感触である。

あと、楽天名刺ができたので、名実ともに「楽天の中の人」というイメージが強くなった気がする。

最後に「楽天、システム開発拠点を国内主要5都市に分散化へ」というニュースを受けて、 このあたりの泥臭いことでもお手伝いできそう、という話になる。

_ なぜ楽天か

で、この辺で「なぜ私が楽天フェローを引き受けたか」についてちゃんと書いとこうと思う。

とはいえ、最大の理由は「縁」なのだが、 より具体的には以下のようなことが理由である。

  • 最初のオファーであった。

    楽天は私に対するこの種のオファーの中で最初のものであった。 楽天との契約にはある種の排他条項があるので、 今後、無制限にフェローを引き受けることはできない(しない)。

  • 私の活動を制限する意図がない

    もちろん、東京でのミーティングが発生するので まったく制限がないわけではないが、 基本的に私の最優先事項である「Rubyの開発」を疎外する意図が全くない ということを終始明示してくださった。

  • 補完関係が成立した

    私が楽天にないもの(プログラミング言語とオープンソースに関する技術と経験、 そっち方面での知名度とコネクション)を提供でき、 逆に楽天も私にないもの(エンタープライズソフトウェア開発の経験と実績、 大規模トラフィックとデータ、ビジネス領域での知名度とコネクション、人材、 あと、お金ww)を持っている。協力により相互に利益が得られることが期待できた。

  • 日本から世界へ

    私の方はあんまり気にしてないんだけど、楽天としては「国産言語」という点に 注目してくださったみたい。 私としては尊重してもらえるのはありがたい。

_ [Ruby] Heap fragmentation in a long running Ruby process ,A+ Open Source Teddy Bears

長期間起動したままのRubyプロセスがメモリフラグメンテーションを起こして 大量のメモリを消費してしまうことがある、という話。

RubyのメモリアロケータはOSのmallocに頼りっぱなしでフラグメンテーションを 回避するような工夫はなにもしていないから、そういうこともありえるかもしれない。 ただし、この話には続きがあって、問題はRubyのアロケータのせいというよりも glibcが採用しているptmalloc2に原因があったらしい。

より新しいバージョンであるptmalloc3をリンクしたら、問題は解決したとか。

_ [言語] coding, by Derek Young: The Curse of The Elegant Languages

the amount of good software written in a language is inversely proportional to the elegance of that language.

ある言語で記述される優れたソフトウェアの数は、その言語のエレガントさに反比例する

という仮説。

その根拠はRubyにはDrupalのような良いCMSが見当たらない、というもの。 言語デザイナーの努力はなんなの、と思わせるような仮説である。 世の中はBASICに戻った方がよいんじゃないの、とか毒をはきそうになるけど、 我慢、我慢。

そういえば、Ruby(とRails)で記述されたCMSとかはあんまりたくさんは見かけないよね。 少なくともまだ「定番」といえるようなものは登場していない。 でも、それはRubyのエレガンスさとは無関係で、 みんな、RailsのCRUDで実現できるような「エンタープライズシステム」作成に 夢中でCMSに手が回らないからじゃないかぁ。


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