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Matzにっき


2007年04月20日 [長年日記]

_ Win-Win関係を築くことについて

先日の挑発的なエントリは、ざっくりまとめると

  • 仕事上の苦労は昇進に直結しない(むしろじゃまになる)
  • 仕事上の苦労が将来報われるということは期待できない
  • Win-Win関係の構築に真剣になるべき

ということであった。

しかし、その中で安易に「転職を考えた方がよい」と 書いたのは間違いであった。なぜならば、 会社とWin-Win関係が構築できていない場合、 その原因の大半はあなたの側にあり、 それを解消しない限り、 転職しても同じことの繰り返しになる可能性が高いからだ。

まず、最初にWin-Win関係とはなにか、についてまとめておこう。

スティーブン・コヴィーの『七つの習慣』によれば、 利害関係のある二者間での関係は、

  • 双方が得をするWin-Win関係
  • 一方が損をし、他方が得をするWin-Lose関係
  • 双方が損をするLose-Lose関係

の三通りがある。当然Win-Win関係が理想だが、現実にはなかなかそうもいかない。 しばしば、Win-Lose関係や、Lose-Lose関係に陥ってしまう。

経営者とプログラマの関係は、 仕事をしてもらって給料を払うという観点からは双方が得をする Win-Win関係と捉えることもできるが、 仕事と報酬がバランスしていない場合には、 簡単にWin-Lose関係になってしまう。

ここで重要なのは一方がWinしているかどうかという基準は 多分に主観的であるということである。 つまり、給料が安くても仕事内容が充実しているために満足している場合もあり、 逆に給料が高くても精神的なストレスなどのため仕事に不満があるケースも珍しくない。

このことを考えると、あなたが仕事上、正しく扱われていないという不満を持っていても、 それは必ずしも上司があなたから搾取しようと考えているわけではない。 彼らは、おそらく以下のいずれかである。

  • あなたの不満に気づいていない
  • あなたの不満に関心がない
  • Win-Win関係が維持できていると思っている

満足が主観的なものである以上、口を開かないで理解してもらえることは まったく期待できない。

この状態で不満を内に持ちつづけることは非常に生産的ではない。 もちろん、予算が無限にあるわけではない以上、 報酬など待遇にも一定の限度があるわけだが、 少なくとも交渉する余地はあるはずだ。 コミュニケーションは重要だ。

あなたの不満は伝わっているだろうか。 あるいは上司はそもそも聞く耳がないのだろうか。

十分なコミュニケーションを行っても、なおなんらかの事情で 妥協する余地が見いだせない場合には、はじめて転職が有効な選択肢として登場するだろう。 いきなり辞めるのでは、それこそLose-Loseの関係である。

_ [Ruby] 「Ruby開発者との交流も魅力」,松江市が「8年間家賃半額」でIT企業を誘致:ITpro

いつのまにそんな話が。

いや、IT関連企業の誘致のために家賃補助というのは、 過去にも似たようなことをしているわけだし(たとえば松江市には電気代補助制度がある)、 そんなに珍しいわけではないのだけれど、 「まつもとと交流」なんてのが「魅力」として登場するというのは 予想の範囲を越えている。

まあ、みなさまの「地域資源」ですから、よしなに活用してくださいませ。

_ [言語] How Common Lisp sucks - comp.lang.lisp | Google Groups

「Common Lispはいい言語だけど、ダメなところもあるよね」という話。

具体的には

  • 近代的な機能に対する標準APIがない(データベース、他言語インタフェースとか)
  • lisp-2としての性質は変えようがない。DSLとして向かないこともある(ただ、これは無茶な話だと思うけど)
  • いくつかの関数名がダメすぎ。ELTはNTHの機能を包含しているし、引数の順番が逆。集合の差分はSET-DIFFERENCEなのに共通部はINTERSECTIONだったり。

とか。些細なことだといえば、その通りだが、 それが気になるくらい他の部分が良いといえば、前向きだろうか。

_ [Ruby] 『JavaからRubyへ

角谷さんから献本していただいた。

これは良い本だ。おおむね以下のような本だと言えよう。

  • 新しい技術を冷静にキャッチアップする技術(手順)
  • マネージャにRubyを紹介するための理論武装
  • 「Rubyの良さ」の再確認

だから、もっとも重要な点は「Rubyについて」ではない。 あらゆる新しい技術に応用可能だ。

個人的には、私が趣味としてはじめたRubyについて こんなに真面目に「仕事として使う」ことを考えてくれる人がいる ということだけで、胸が一杯になった。

あと、角谷さんが正誤表を含むサポートページを開設している。


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