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Matzにっき


2004年12月02日 [長年日記]

_ [OSS]日本におけるOSSの幻想-OSS界のガラパゴス諸島、ニッポン

日本においてはOSS振興の流れが出てきてはいるが、「すべてがうまくいっているわけではない」とVAリナックスの佐渡氏は話す。いびつに変質したコミュニティなど、日本はOSSのガラパゴス諸島であると持論を展開する。

佐渡さんってば前にも同じようなこと言ってるよね。

佐渡さんが言ってるようなことが起きていないとは私は言わない。 OSS全体を見れば確かに日本からの貢献は少なく見える。 少なくとも多くの人はそう認識している。 ついこないだもEric Raymondが「日本は人口や教育レベルの割にハッカーが少ない」ってメールに書いてたし。 でも実際のところはどうなんだろう。

まず、(私の感じている)事実から。佐渡さんの意見を裏づけるものは以下の通り。

  • 日本人であって日本人以外から広く知られているOSS開発者は非常に少ない。本当に少ない。
  • SourceForge.jpのプロジェクト数は1,297で、本家の91,783にははるかに及ばない。 もっとも本家にプロジェクトを持っている日本人もいるから一概には少ないとは言えない(いや、少ないと思うけど)。
  • 日本におけるOSSの利用は他国に負けていない(らしい)。
  • 日本からのパッチ(特に国際化関係)が無碍に受け入れられなかったケースはいくつか知られている。 特にコミュニケーション不全によるものが目立つ。

でもね、それって結局「英語が下手くそ」という点に還元されるような気がする。 しかも、英語が下手くそな理由は「使わなくてもすむから」なわけで。

たとえば、英語以外の母国語だけでOSS関連のちゃんとしたイベントができる国は少ない。 私の知ってる範囲内では、フランス、ドイツ、デンマーク、ベルギー、オランダ、メキシコ、ブラジル、中国、インドのイベントでは英語は必須。日本は貴重な例外。お隣の韓国はどうか。

ということは、佐渡さんが観察した「問題」は、結局日本は恵まれている(恵まれすぎている)ということの 現れのような。

であれば、言うべきことはただ単にダメだ、ダメだとか、

肝心なのは日本で閉じることなく、グローバルに出て行くこと

なんて どっかで聞いたような結論じゃなくて、 なぜグローバルに出て行くべきか、 ちゃんとコミュニケーションするとこんなことがトクってことじゃないだろうか。 あるいは日本で閉じているとこんなに損だ、とか。

ところが、数少ない「グローバルに出て行くこと」を実践している人物のはずの私でさえ、 改めて考えるとなにがトクなのかよくわかんないんだよね。 「グローバルに出て行くこと」で海外から収入を得ているわけでもないし、 より多くの人に恩恵を与えているってことで 「エゴ(自尊心)を充足させる空間が広い」ってことくらいか。

でも、エゴは食えないしな。

ORCAについては...、いろいろあるが、別の機会にしよう。


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