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Matzにっき


2006年03月01日 [長年日記]

_ 開発環境はプアなほうがいい?

元ネタはアットマーク・アイティのロシア製データベースの話。

注目すべきはここ。

当時ソビエトで利用できるコンピュータのほとんどは西側に比べて性能的に2〜3世代古いものだった。こうした環境であっても、例えば政府機関や公官庁ではデータベースを使いたいという要求はあり、

  • 劣ったハードウェア性能をソフトウェアでカバー
  • 絶対的なメモリ搭載量が少ないので、小フットプリント必須。メモリリークなどもってのほか
  • 手本になる大規模RDBが存在しない時期で、まねることもできない

という三重苦の環境で、まず2年間の基礎研究とその後2年間の開発を経て完成したのがLinterである。こうしてできたLinterは、官公庁や一部軍用などにも利用されたらしい。

その後冷戦が終結して東西交流が始まると、Linterも米国に渡ることになる。すると、動作環境がいきなり2〜3世代進んだ状態で利用される形となり、少ないメモリ量と乏しいCPUパワーで動作するように設計されていたLinterは、エンタープライズ向けはおろか組み込み向けでも十分利用できることがいわば「発見」された。もともとLinterは組み込み用途ではなくエンタープライズ向けRDBとして開発されていたのだが、その動作環境が組み込み向けレベルであった(注)ため、組み込み向けに展開するのも容易であったのだろう。

注:最初の開発のターゲットマシンは、いにしえのDEC VAX/VMSおよびDEC Professional 350だそうだ。VAXの方は恐らくVAX-11クラスと思われるのでまだしも、Professional 350といえばCP/M-80やRT-11が動く16bit PCでしかない。

最近遭遇した真逆のケースはRast。Rastの開発チームの使ってたマシンは 結構潤沢なパワーのあるマシン(CPUもディスクも高速)だったので、 私のThinkpadで使うまでこれほど遅いとは認識されなかったらしい。

開発者にはあまり贅沢させてはいけないのか。...そういえば、これもJoelと違う結論だな。

_ [Ruby] Ruby 2.0の新仮想マシンYARVとは?

先日の成果報告会のレポート。YARV特集。 笹田くんのプレゼンがしっかりまとめてある。

Rubyは「 今後も目がはなせないスクリプト言語」だそうです。 ありがとう、MYCOM PCWEB。

_ [OSS] 「松江市 テルサにIT開発拠点」

1日付けの山陰中央新報(島根の地方紙)の記事。

松江市 テルサにIT開発拠点

松江市が今春からIT産業の振興に力を入れる。 ソフトウェアの設計図のソースコードを公開することで、自由に、利用できる オープンソースソフトウェア(OSS)産業のメッカを目指し、 朝日町の松江テルサに交流スペースを整備。 事業者らの情報交換や技術発進に活用してもらう。

同市には、県内IT企業の八割が集積、 また、コンピューターが動くのに必要なプログラミング言語で唯一日本生まれの 「ルビー」を、OSSで開発した世界的な研究員が市内企業で活躍している。 これら地域資源の強みを生かしたい考えだ。

今日発表するって知らなかったから、朝食後に新聞を読んでて吹き出しそうになった。 実名出てないけど、もろに私のことじゃん。

なんか「唯一日本生まれのプログラミング言語」とか「ルビー」とか、 誤解を生みやすい表現だけど、まあ一般紙ならこんなものか。

それはそうと、この記事の見出しが「世界的資源生かす」とあるんだけど、 「県内IT企業」は世界的資源ではないと思うので、 つまりそれって、私が「資源」ってこと?

まあ、確かに人的資源とかhuman resourceとかいうけどさ。

具体的に何をやるのかまだ聞いてないんだけど、 私もこの「IT拠点」に積極的に参加することになっている。 ただの飾りに終わらずなんか生産的なことができたらいいな、と思っている。

問い合わせは松江市産業振興課へ。


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