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Matzにっき


2004年05月11日 [長年日記]

_ Winny開発者、逮捕

昨日の話題だが、これが報道されてからずっと考えていたのだ。

Winnyを使ったことはないが、著作権侵害のファイル交換に用いられていたのは事実だろう。 が、個々のファイル交換の行為者が法律に違反しているとして、 その違法行為に使われたソフトウェアの開発者が「幇助」で逮捕されるとはどういうことか。

朝日新聞の報道によれば、

「Winnyはすばらしい技術。開発したことだけで立件したわけではない」−−。京都府警の阿波拓洋・生活安全企画課長は10日午前に開かれた記者会見でこう強調した。府警が立件に踏み切った背景は、金子勇容疑者の著作権法に対する挑発的な態度だった。

(強調はまつもとによる)のだそうだから、ソフトウェア開発そのものが問題ではないらしい。

ではなにが問題か。

「著作権侵害を蔓延させようという意図」をもって「違法行為に使われるソフトウェアを開発」したことか。 これらが両方同時に成立すれば、立件される可能性があるのか。

たとえば、私が「現在の日本の著作権法は間違っている。 インターネット時代に適合するためこれは正すべきだ」と挑発的な態度だったとして、 著作権侵害にRubyが使われたとしたら、 Rubyも違法行為に(も)使われるソフトウェアであると見なされ、私も幇助になるのか。

もし、そうならないとしたらその違いはなにか。 あるいはビデオデッキやテープレコーダーが合法でWinnyが違法である違いはなにか。

違法行為は取り締まられるべきだ。私自身は法律に違反すべきではないと考えている。 悪法は直されるべきだとは思っているが、法は法だ。

しかし、ソフトウェアあるいはツールの開発は、 それが法律で明確に禁止されているのでなければ違法であるべきではない。 また、人の生命に直結する武器・兵器を除いて、よっぽどのことがないかぎりは非合法化されるべきではない*1

ところで「府警が立件に踏み切った背景は、金子勇容疑者の著作権法に対する挑発的な態度だった」って、 朝日新聞の言葉、もし本当ならかなりまずいんじゃないかと。日本国憲法には

とあるのだが。法治国家としてはゆゆしき事態では。

追記:

ところで、「著作権法における罰則規定の概要」によると、今回「著作権侵害」とされたであろう

  • 著作権等の侵害
  • 営利を目的として権利管理情報の改変等

などは親告罪である。では、著作権侵害幇助は親告罪か。もしそうなら訴えたのは誰か。

*1  そういう意味から、私は前回の著作権法の改正には反対だ

_ Winny思考実験

先にも書いたように「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」は憲法でも認められた基本的人権だ。

たとえば、私がこの「言論の自由」を保障するために、 完全匿名を実現するP2Pベースの(そうでなくてもよいけど)掲示板ソフトウェアを開発したらどうだろう。 私の目的は基本的人権の追求であり、なんら恥じるところはない。

しかし、そのようなソフトウェアができたら、メッセージに混じって、 現在Winnyで流通していたような著作権侵害のデータが流通する可能性はある。 いや、きっとそうなるだろう。

そんな状況で、そのような著作権データが流通している事実を知りながら、 言論の自由の方が大切だからという理由で、開発を(2年間に236回くらいリリースして)継続したら、 それは著作権侵害幇助として立件されるか。

その時、私がうっかり、「そろそろ匿名性を実現できるファイル共有ソフトが出てきて現在の著作権に関する概念を変えざるを得なくなるはず」とか発言しちゃったら立件されちゃうのか。


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