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Matzにっき


2004年03月26日 [長年日記]

_ [言語]Curlと言語ビジネス

CNET Japanの『「SIerのビジネスモデルを変える」--新ウェブ言語Curlとは』という記事で、Curlとそのビジネスについて紹介されている。 インタビューを受けているのは、カール・アジアパシフィック(CAPC)の塩野谷光司社長と田中秀明企画本部長。

過去の観察とあらゆる考察の結果として、 言語ビジネスについては希望を持てない私だが、 成功できるはずがないとまで思っているわけではないので、 彼らの主張について考察し、見守っていきたいと思っている。

詳しくは記事を 読んでいただきたいが、彼らの主張を要約すると以下の通りである。

  1. Curlはウェブシステム開発用のプログラミング言語であり、 HTMLやJavaScript、Flash、Java、C++などの機能を包括している。 単一の言語でさまざまな領域をカバーできる。 一番重要な機能はリッチクライアントが開発できること。
  2. Curlは開発効率が高い。感覚的にはJavaの半分から3分の1の期間で済む。
  3. Curlはライセンスビジネスを行う。ライセンスは最近大幅な値下げを行った(開発環境が5万9800円、サーバライセンスが20ユーザーで30万円から)。有料の言語であっても効果が十分高ければ広まる(に違いない)。
  4. 2004年度の半ばにはブレイクしてくるのではないか。今年度の売上目標は3億円。

これらに対する私の意見は以下の通り。

  1. Curlの言語仕様は『Curlプログラミングエッセンシャルズ』を 二度ほど立ち読みしただけしか知らないのだが、 少なくとも既存のプログラミング言語をよく知る身には決して学びやすくはない。

    一番の問題はどこにブレースを付けてよいのか、いけないのかが分からないこと。 あるいは上記の本の問題なのかもしれないけれど、サンプルのメソッド定義のボディで、 ある文はブレースで囲まれており、ある文はそうでないのを見ると不安を感じる。 それ以外の文はなんだかQuote形式のLispみたい。最近ぽい表現だとTclか。 でも、LispやTclの方が(文法が低レベルなぶんだけ)理解しやすい。

    リッチクライアントは魅力かもしれないが、 Javaアプレットがあれだけ期待された割にそれほど成功しなかった点を見ると、 安心はできない。言語の成功は機能だけにはよらないからだ。

  2. Curlは開発効率が高いというのは分かる気がするが、 スクリプト言語的性質を持つ言語であればJavaの半分から3分の1の期間というのは、割と普通。

    Javaには豊富な資産が存在するので、 その中にそのものずばりのライブラリ(or フレームワーク)を持っていれば、 そんな差はふっとんでしまうだろうけど。

  3. 有料の言語はやはり難しいと思うなあ。言語みたいに差が出にくいものでは、 試してみるのにさえお金がかかるものを採用するのは難しいんじゃないだろうか。 Oracleのような単機能のものであれば、まだ分かりやすいけど、 言語は導入してもそれだけじゃなんにもできないから。

    「多くのコンパイラは有料でしたし、Javaもすべて無料なわけではありません」という田中氏の発言には 同意できない。もちろん昔から今に至るまで有料のコンパイラは存在していて、 細々とビジネスになっているのは事実だが、有料の処理系しかなくて成功した言語は極めて稀だ。 VBくらいじゃないだろうか。マイクロソフトのような市場に対する影響力があってはじめて成立することなんじゃないだろうか。

    無料の処理系があって、いろいろ試してみてこれは使えそうだっていうんで、 より性能の高い処理系を買うっていうのが通常のパスではないだろうか。 そこで(いくら企業にとってみれば安価であるとはいえ)、 有料の処理系しかなければ圧倒的に敷居は高い。

    だからといって、無料の処理系を出してしまうと広まるかもしれないが(実は無料でさえ新しい言語が世に広まるのは非常に困難なのだが、それは置いておくとして)、そのぶん、お金を出して処理系を買おうという意欲は確実に減ってしまうわけで、痛し痒しである。REBOLとかそんな感じだよね。

    長い歴史の中で言語ビジネスでかろうじて生き延びているのは、 既存の言語の(ハイパフォーマンスな)処理系を売っているところだけではないだろうか。 新しい言語を導入して一儲けを企むベンチャーは後をたたないが、 文字通り「死屍累々」である。Curlにはぜひ例外になってもらいたいものだ。

というわけで、2004年度の半ばにはブレイクしてくることが期待されるCurl言語、 私も応援したいのだが、お金を出して開発環境を買うほどの熱意はない。 せめて『Curlプログラミングエッセンシャルズ』でも買うことにしようか。


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